Inheriting

波瀬氏が築いた能登流の系譜を受け継ぐ
榛葉農(みのり)杜氏による酒造り

昭和50年代、「吟醸酒」「吟醸造り」といった言葉は、ほとんど知られていませんでした。当時、吟醸造りは鑑評会出品用の特別なお酒、一般的に知られていないのも無理からぬものでした。そうした中、土井酒造場ではいち早く吟醸酒の製品化に取り組みます。先代(現会長・土井清愰)と、その右腕で能登杜氏四天王のひとりと謳われた名杜氏・波瀬正吉により、酒米の選定から酒造設備、製造方法の全てを見直したと言います。こうして醸された吟醸造りの酒は大評判となり「土井酒造場と言えば吟醸造り、大吟醸酒」という高い評価をいただくようになりました。

2009年、40年以上にわたって土井酒造場の杜氏を務めた波瀬正吉杜氏が急逝。波瀬杜氏から長く直接指導を受けた榛葉農(みのり)が、能登流杜氏として土井酒造場の酒造りの現場を率いることになります。波瀬杜氏が急逝された2009年こそ全国新酒鑑評会の金賞を逃しますが、翌年、翌翌年と再び全国新酒鑑評会で金賞を受賞、名杜氏の後継としてのプレッシャーをはねのけ、その重責を見事に果たします。

2022年(R3BY)の酒造りのさなか、榛葉杜氏に創業150年、節目の年の酒造りについて聞くと「今、酒造りは過渡期を迎えています。これまでの世代、これからの世代、その橋渡しを担うのが僕たちの役割です。開運らしさを変えることなく、さらに次代へと繋げる新しい酒造りの模索。難しくはありますが、楽しみながら挑戦し続けて行きます」と話してくれた。150年の伝統と、変化をいとわない造り手の姿勢が、土井酒造場が醸す酒を常に新しいものにしています。

波瀬杜氏と榛葉杜氏

写真右:波瀬正吉杜氏、左:若き日の榛葉農(みのり)。波瀬杜氏が急逝される前年、2008年3月28日に撮影。

波瀬杜氏と榛葉杜氏

蔵屋敷の中庭にある洗米場にて、浸漬中の酒米の具合を確認する波瀬杜氏(右)と榛葉農(中)。

波瀬杜氏と榛葉杜氏

酒母室にてタンク内の温度を確認する榛葉杜氏。酒母とはその名の通り、醪(もろみ)の元となる酒の母。

波瀬杜氏と榛葉杜氏

醸造タンク内の醪の状態を確認するのは杜氏の大切な役割。毎日専用の分析器で醪の成分分析を行う。